奇跡的に身体がうごく晴れた日だったので、森に行った。
コロナ禍以降森は人間が増える一方で、今日などはますます人間が増えているように思えた。
家族連れと思しき小集団があちこちで小さなテントを張り、レジャーシートを広げてくつろいでいた。「飲食を伴うような宴会の自粛のお願い」という張り紙の注意は、あまり守られていないようだった。
水辺には、大砲のようなカメラを三脚に乗せ、ずらりと並べた集団が陣取っていて、わたしはその横をコソコソと通り抜けた。カメラを構えた人間から「今日はカワセミいないな」とセリフが聞こえた。
森に行く場合、ひたすら歩き回る日と、決まった場所にじっと腰を落ち着けてただボーッとする日がある。
今日は後者で、なるべく人間が少なくあまり人通りのない場所の岩に腰掛けて、水のさざなみを眺めていた。
季節は初夏で、ほぼカエルと言っていいおたまじゃくしがいた。
もしわたしがこのおたまじゃくしで、尻尾が取れるはずなのにこのままずっと中途半端に尻尾が取れないままだったら嫌だなと思った。一生カエルの仲間にバカにされてしまう。
帰りがけ、いかにもおだやかで幸せそうなほほえみを浮かべた犬がいたのでじっと見つめてみたら、わたしを認めたその犬は歯をむき出して唸りおそろしい声で吠えはじめた。
隣りにいた人間が犬の首輪を押さえ、必死に「スマイル!スマイル!」と呼びかけていた。
わたしに吠えた犬の名は、スマイルと言うのだった。
スマイルごめんね、君の気分を害して。
そんなつもりじゃなかったんだ。