すごく寒くて木がいっぱい生えていて広大な動物園だった。
途中、人間用の遊具が置かれている箇所があり、たくさんの小さな人間が遊具に登ったり揺らしたりして甲高い声をあげて遊んでいたので、これまで見た動物のなかで人間が一番元気だなぁと数秒間足を止めた。
ゆっくり歩いて見て回り閉園時間が近づくころ、チンパンジー舎にたどり着いた。
「チンパンジーはサルではありません。人間と共通の祖先から別れた類人猿で、人間にもっとも近い生き物です」
なるほどと思いながら見上げると、大人と思われるチンパンジーと目があった。
それは昼間部屋でじっとしてるわたしと全く同じ姿勢で見上げるわたしを観察していた。
チンパンジー舎には屋外もあり、生きてる樹木と人工物の樹木とロープが混在していた。
よく見ると、生きてる樹木には一定の高さより上には登れないよう鉄線が張り巡らされているのであった。
あたまのなかに「人に近い生き物です」という言葉がよみがえる。
その文意はチンパンジーという生き物へ敬意を持ってほしいということと、人間もまた動物であるということを強調するということだと思う。
動物園で展示されるわたしを想像した。
死ぬ心配はないけれど、自由はない。
生殖を管理される。
たえず人間に物珍しげに見られる。
そんな人間を見つめ返すくらいが唯一の楽しみかもしれない。
動物園の使命のひとつには、希少動物の保護があるという。
命の保護と管理は同じことなのかもしれない、ああそれはいままさに生きてる人間にも起きている、と思った。
展示されないまでも。