親愛なるサクラさんへ
暑い日が続きますがいかがお過ごしですか。
わたしはなんとかやっています。
今回筆を取りましたのは、この数週間休むうちに様々なことがあり深く考え、深く考えすぎてブレーキの壊れた車のようになってしまい、この話をだれかに聞いてもらいたいと思ったからです。
サクラさんは誰かに相談したいと思ったとき、どうしていますか。
わたしは具体的な誰かに相談するという行為がひどく暴力的なように思え、結果的に全世界へと公開されているSNSに王様の耳はロバの耳と思いながらぶちまけることをしてしまいがちです。
それにはたくさんの問題が絡むこともわかっているつもりです。美容師が穴に吹き込んだ秘密の話は、草が歌いながら王国中へとバラしてしまいました。
わたしはそのようなことをしているのです。
でも、最近心のなかが荒れ狂い、適切な表現方法も表現場所もわからず苦しんでいます。
真夜中にだれかに助けてほしいと願います。
その一瞬あとに、やはり自分を助けるのは自分しかいないと思うのです。
わたしが真に助けを求めることができるのはサクラさんしかいません。
この意味がきっとサクラさんはわかると思います。
サクラさんはどのようにお考えですか。
お返事お待ちしています。
マルタ
◇◇◇
親愛なるマルタさんへ
お手紙ありがとう。
ほんとうに暑い日が続きますね。
けれど、わたしは暑い日が意外に好きです。暑さに頭がぼうっとすると世界がとてもしずかになり、そして強い日差しのなかでなにもかもキラキラと輝いて見えるからです。
お悩み、よくわかります。
あなたもよくご存知の通り、わたしとあなたはずっと一緒だったからです。
誰かに相談するということ、それはとてもむずかしいことです。
なぜならば、人には重みがあるからです。
尊厳や存在感、痛み悲しみ苦しみ怒り……反対に喜びや高揚、それは心や命と言い換えることができるかもしれません。
それを受け止めることは、受け止める喜びも伴いますが、並大抵のことではありません。
だから、あなたがおそれ迷うのもよくわかります。
だからこうして、お手紙をくださったのですよね。
わたしの話をしましょう。
わたしは今までずっとおそれて、心のなかにたくさんの箱を作ってきました。
その箱のなかには、わたしの感情や思い出が詰め込まれて封をされています。それが飛び出してきたら、わたしは社会とうまくやっていけないと思うような種類の感情です。
しかし、自分でも知らず知らずのうちにその箱が増えすぎてしまい、ある日わたしは自分で抱えた箱の重さに倒れました。
そうすると箱が壊れて、今まで必死に押し込めていた感情が漏れ出てわたしを蝕むようになりました。
わたしは気づきました。
箱に押しこめただけではなにも解決しないのだと。いつかこうして必ずしっぺ返しを食らうのだと。
親愛なるマルタさんへ。
わたしは素のあなたを受けとめ愛さなければなりません。
決意をしましたが、まだ安心はできません。わたしにはまだあなたの壊れたブレーキを治す方法もわからないのです。
でもきっとできるはずです。
根拠はないけれどそう信じます。
だから、わたしを敵と思わないでください。
真夜中にわたしに助けを求めてください。
わたしもそのまま受け止める努力をします。
あなたのわたしを信頼しはじめようとした気持ちを、わたしはとてもうれしく思い、そして勇気づけられます。
ほんとうにお手紙ありがとう、わたし。
サクラ